明け方へと山月記を読み返す🌒⛰🐅

1 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 04:56:30.21 ID:XwosTMES0.net
🐯・・・

31 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:09:44 ID:L4HnZuj20.net

作家はコミュ障が多いからいつでも誰でも李徴になる可能性がある

45 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:18:03.67 ID:XwosTMES0.net

虎狩 中島敦

16 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:02:46 ID:XwosTMES0.net

 それ以來今迄にどんな所行をし續けて來たか、それは到底語るに忍びない。ただ、一日の中に必ず數時間は、人間の心が還つて來る。さういふ時には、曾ての日と同じく、人語も操れれば、複雜な思考にも堪へ得るし、經書の章句をも誦ずることも出來る。

その人間の心で、虎としての己の殘虐な行のあとを見、己の運命をふりかへる時が、最も情なく、恐しく、憤ろしい。

しかし、その、人間にかへる數時間も、日を經るに從つて次第に短くなつて行く。今迄は、どうして虎などになつたかと怪しんでゐたのに、此の間ひよいと氣が付いて見たら、己れはどうして以前、人間だつたのかと考へてゐた。之は恐しいことだ。

14 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:02:02.54 ID:Bc5ccY9U0.net

りちょるのすき

60 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:33:03.42 ID:XwosTMES0.net

 その頃――というのは小学校の終り頃から中学校の初めにかけてのことだが、彼が一人の少女を慕っていたのを私は知っている。

小学校の私達の組は男女混合組で、その少女は副級長をしていた。(級長は男の方から選ぶのだ。)背の高い、色はあまり白くはないが、髪の豊かな、眼のきれの長く美しい娘だった。

組の誰彼が、少女倶楽部か何かの口絵の、華宵とかいう挿絵画家の絵を、よく此この少女と比較しているのを聞いたことがあった。

趙は小学校の頃から其の少女が好きだったらしいのだが、やがてその少女もやはり龍山から電車で京城の女学校に通うこととなり、往き帰りの電車の中でちょいちょい顔を合せるようになってから、更に気持が昂じてきたのだった。

42 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:15:56 ID:L4HnZuj20.net

>>38
自分は李徴ではないのだ!と否定することこそ心中の虎よな

2 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 04:56:36.14 ID:XwosTMES0.net

山月記  中島敦

20 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:04:01.39 ID:XwosTMES0.net

 袁傪は部下に命じ、筆を執つて叢中の聲に隨つて書きとらせた。李徴の聲は叢の中から朗々と響いた。長短凡そ三十篇、格調高雅、意趣卓逸、一讀して作者の才の非凡を思はせるものばかりである。

しかし、袁傪は感嘆しながらも漠然と次の樣に感じてゐた。成程、作者の素質が第一流に屬するものであることは疑ひない。しかし、この儘では、第一流の作品となるのには、何處か(非常に微妙な點に於て)缺ける所があるのではないか、と。

21 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:04:29.85 ID:XwosTMES0.net

 舊詩を吐き終つた李徴の聲は、突然調子を變へ、自らを嘲るが如くに言つた。

 羞しいことだが、今でも、こんなあさましい身と成り果てた今でも、己れは、己れの詩集が長安風流人士の机の上に置かれてゐる樣を、夢に見ることがあるのだ。岩窟の中に横たはつて見る夢にだよ。嗤つて呉れ。詩人に成りそこなつて虎になつた哀れな男を。

(袁傪は昔の青年李徴の自嘲癖を思出しながら、哀しく聞いてゐた。)

さうだ。お笑ひ草ついでに、今の懷を即席の詩に述べて見ようか。この虎の中に、まだ、曾ての李徴が生きてゐるしるしに。
 袁傪は又下吏に命じて之を書きとらせた。その詩に言ふ。

偶因狂疾成殊類  災患相仍不可逃
今日爪牙誰敢敵  當時聲跡共相高
我爲異物蓬茅下  君已乘軺氣勢豪
此夕溪山對明月  不成長嘯但成嘷

71 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:44:32.09 ID:XwosTMES0.net

>>69
韻踏めてないことくらいはわかる

13 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:01:22 ID:XwosTMES0.net

 今から一年程前、自分が旅に出て汝水のほとりに泊つた夜のこと、一睡してから、ふと眼を覺ますと、戸外で誰かが我が名を呼んでゐる。聲に應じて外へ出て見ると、聲は闇の中から頻りに自分を招く。

覺えず、自分は聲を追うて走り出した。

無我夢中で駈けて行く中に、何時しか途は山林に入り、しかも、知らぬ間に自分は左右の手で地を攫んで走つてゐた。何か身體中に力が充ち滿ちたやうな感じで、輕々と岩石を跳び越えて行つた。

氣が付くと、手先や肱のあたりに毛を生じてゐるらしい。

少し明るくなつてから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既に虎となつてゐた。

34 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:12:30.33 ID:XwosTMES0.net

 袁傪は叢に向つて、懇ろに別れの言葉を述べ、馬に上つた。叢の中からは、又、堪へ得ざるが如き悲泣の聲が洩れた。袁傪も幾度か叢を振返りながら、涙の中に出發した。

17 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:02:55.41 ID:i6ahdFXl0.net

謎定期

56 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:29:19.05 ID:XwosTMES0.net

正直にいうと、何も私はその少年に勝てると思って跳びかかって行ったわけではない。身体の小さい弱虫の私は、それまで喧嘩をして勝ったためしがなかった。だから、その時も、どうせ負ける覚悟で、そしてそれ故に、もう半分泣面をしながら跳びかかって行ったのだ。

所が、驚いたことに、私が散々叩きのめされるのを覚悟の上で目をつぶって向って行った当の相手が案外弱いのだ。運動場の隅の機械体操の砂場に取組み合って倒れたまま暫く揉もみ合っている中に、苦もなく私は彼を組敷くことが出来た。

私は内心やや此の結果に驚きながらも、まだ心を許す余裕はなく、夢中で目をつぶったまま相手の胸ぐらを小突きまわしていた。

が、やがて、あまり相手が無抵抗なのに気がついて、ひょいと目をあけて見ると、私の手の下から相手の細い目が、まじめなのか笑っているのか解らない狡そうな表情を浮かべて見上げている。

私はふと何かしら侮辱を感じて急に手を緩めると、すぐに立上って彼から離れた。すると彼も続いて起き上り、黒いラシャ服の砂を払いながら、私の方は見ずに、騒ぎを聞いて駈付けて来た他の少年達に向って、きまり悪そうに目尻をゆがめて見せるのだ。

私は却って此方が負けでもしたような間の悪さを覚えて、妙な気持で教室に帰って行った。

44 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:17:27.98 ID:XwosTMES0.net

>>41
虎狩りの話か?

72 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:45:53 ID:XwosTMES0.net

 その夜は漢江の岸の路梁津の川原に天幕を張ることになった。私達は疲れた足を引きずり、銃の重みを肩のあたりに痛く感じながら、歩きにくい川原の砂の上をザックザックと歩いて行った。

露営地へ着いたのは四時頃だったろう。いよいよ天幕を張ろうと用意にかかった時、今まで晴れていた空が急に曇って来たかと思うと、バラバラと大粒な雹が烈しく落ちて来た。

ひどく大粒な雹だった。私達は痛さに堪えかねて、まだ張りもしないで砂の上に拡げてあったテントの下へ、我先にともぐり込んだ。

その耳許へ、テントの厚い布にあたる雹の音がはげしく鳴った。雹は十分ばかりで止んだ。テントの下から首を出した私達は――その同じテントに七八人、首を突込んでいたのだ。――互いに顔を見合せて一度に笑った。

その時、私は趙大煥もやはり同じテントから今、首を抜き出した仲間であることを見出した。が、彼は笑っていなかった。不安げな蒼あおざめた顔色をして下を向いていた。

72 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:45:53 ID:XwosTMES0.net

 その夜は漢江の岸の路梁津の川原に天幕を張ることになった。私達は疲れた足を引きずり、銃の重みを肩のあたりに痛く感じながら、歩きにくい川原の砂の上をザックザックと歩いて行った。

露営地へ着いたのは四時頃だったろう。いよいよ天幕を張ろうと用意にかかった時、今まで晴れていた空が急に曇って来たかと思うと、バラバラと大粒な雹が烈しく落ちて来た。

ひどく大粒な雹だった。私達は痛さに堪えかねて、まだ張りもしないで砂の上に拡げてあったテントの下へ、我先にともぐり込んだ。

その耳許へ、テントの厚い布にあたる雹の音がはげしく鳴った。雹は十分ばかりで止んだ。テントの下から首を出した私達は――その同じテントに七八人、首を突込んでいたのだ。――互いに顔を見合せて一度に笑った。

その時、私は趙大煥もやはり同じテントから今、首を抜き出した仲間であることを見出した。が、彼は笑っていなかった。不安げな蒼あおざめた顔色をして下を向いていた。

73 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:47:20.43 ID:XwosTMES0.net

>>69
何にしても無理はせんでな
日雇いやと先が見えなくて日に日にしんどくなっていくやろ仕事変えられるなら変えたほうがいい

70 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:43:24.68 ID:XwosTMES0.net

 彼と私との交際の間には、もっと重要なことが沢山あったに相違ないのだが、それでも私はこうした小さな出来事ばかり馬鹿にはっきりと憶えていて、他の事は大抵忘れて了しまっている。人間の記憶とは大体そういう風に出来ているものらしい。

で、この他に私のよく憶えていることといえば、――そう、あの三年生の時の、冬の演習の夜のことだ。

 それは、たしか十一月も末の、風の冷たい日だった。その日、三年以上の生徒は漢江南岸の永登浦の近処で発火演習を行おこなった。

斥候に出た時、小高い丘の疎林の間から下を眺めると、其処には白い砂原が遠く連なり、その中程あたりを鈍い刃物色をした冬の川がさむざむと流れている。
そしてその遥か上の空には、何時いつも見慣れた北漢山のゴツゴツした山骨が青紫色に空を劃っていたりする。

そうした冬枯の景色の間を、背嚢の革や銃の油の匂、又は煙硝の匂などを嗅ぎながら、私達は一日中駈けずり廻った。

22 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:04:31.59 ID:IqvO8HcH0.net

飽きられてるのにしつこいな

30 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:09:33 ID:XwosTMES0.net

 漸く四邊[あたり]の暗さが薄らいで來た。木の間を傳つて、何處からか、曉角が哀しげに響き始めた。

 最早、別れを告げねばならぬ。醉はねばならぬ時が、(虎に還らねばならぬ時が)近づいたから、と、李徴の聲が言つた。だが、お別れする前にもう一つ頼みがある。それは我が妻子のことだ。

彼等は未だ虢略にゐる。固より、己れの運命に就いては知る筈がない。君が南から歸つたら、己れは既に死んだと彼等に告げて貰へないだらうか。決して今日のことだけは明かさないで欲しい。
厚かましいお願だが、彼等の孤弱を憐れんで、今後とも道塗に飢凍することのないやうにはからつて戴けるならば、自分にとつて、恩倖、之に過ぎたるは莫い。

26 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:07:05.97 ID:XwosTMES0.net

人間は誰でも猛獸使であり、その猛獸に當るのが、各人の性情だといふ。己れの場合、この尊大な羞恥心が猛獸だつた。虎だつたのだ。之が己を損ひ、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形を斯くの如く、内心にふさはしいものに變へて了つたのだ。

今思へば、全く、己れは、己れの有つてゐた僅かばかりの才能を空費して了つた譯だ。
人生は何事をも爲さぬには餘りに長いが、何事かを爲すには餘りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事實は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧と、刻苦を厭ふ怠惰とが己れの凡てだつたのだ。

己れよりも遙かに乏しい才能でありながら、それを專一に磨いたがために、堂々たる詩家となつた者が幾らでもゐるのだ。虎と成り果てた今、己れは漸くそれに氣が付いた。それを思ふと、己れは今も胸を灼かれるやうな悔を感じる。

78 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:53:48 ID:XwosTMES0.net

その同じ天幕の中には私達三年生が五人と(その中には趙も交っていた。)それに監督の意味で二人の四年生が加わっていた。

誰も初めの中は仲々寝そうにもなかった。真中に砂を掘って拵えた急製の炉を囲み、火影に赤々と顔を火照らせ、それでも外からと、下からと沁みこんでくる寒さに外套の襟を立てて頸を縮めながら、私達は他愛もない雑談に耽った。

その日、私達の教練の教官、万年少尉殿が危く落馬しかけた話や、行軍の途中民家の裏庭に踏入って、其の家の農夫達と喧嘩したことや、
斥候に出た四年生がずらかって、秘かに懐中にして来たポケット・ウイスキイの壜を傾け、帰ってから、いい加減な報告をした、などという詰まらない自慢話や、そんな話をしている中に、結局何時の間にか、少年らしい、今から考えれば実にあどけない猥談に移って行った。

やはり一年の年長である四年生が主にそういう話題の提供者だった。私達は目を輝かせて、経験談かそれとも彼等の想像か分らない上級生の話に聞き入り、ほんの詰まらない事にもドッと娯しげな歓声をあげた。

ただ、その中で趙大煥一人は大して面白くもなさそうな顔付をして黙っていた。

趙とても、こういう種類の話に興味が持てないわけではない。ただ、彼は、上級生の一寸した冗談をさも面白そうに笑ったりする私達の態度の中に「卑屈な追従」を見出して、それを苦々しく思っているに違いないのだ。

58 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:31:08 ID:W7Mutif9r.net

>>6
ネタバレやめろ

15 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:02:14.67 ID:XwosTMES0.net

自分は初め眼を信じなかつた。
次に、之は夢に違ひないと考へた。夢の中で、之は夢だぞと知つてゐるやうな夢を、自分はそれ迄に見たことがあつたから。どうしても夢でないと悟らねばならなかつた時、自分は茫然とした。さうして、懼れた。全く、どんな事でも起り得るのだと思うて、深く懼れた。

しかし、何故こんな事になつたのだらう。分らぬ。全く何事も我々には判らぬ。理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取つて、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ。

自分は直ぐに死を想うた。しかし、其の時、眼の前を一匹の兎が駈け過ぎるのを見た途端に、自分の中の人間は忽ち姿を消した。

再び自分の中の人間が目を覺ました時、自分の口は兎の血に塗れ、あたりには兎の毛が散らばつてゐた。之が虎としての最初の經驗であつた。

75 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:49:43.33 ID:XwosTMES0.net

 実をいうと、此の時ばかりでなく、趙は前々から上級生に睨まれていたのだ。第一、趙は彼等に道で逢っても、あまり敬礼をしないという。これは、趙が近眼であるにも拘かかわらず眼鏡を掛けていないという事実に因よることが多いもののようだった。

が、そうでなくても、元来年の割にませていて、彼等上級生達の思い上った行為に対しても時として憫笑を洩らしかねない彼のことだし、
それにその頃から荷風の小説を耽読する位で、硬派の彼等から見て、些か軟派に過ぎてもいたので、これは上級生達から睨まれるのも当然であったろう。

趙自身の話によると、何でも二度ばかり「生意気だ。改めないと殴るぞ。」と云って、おどかされたそうだ。

殊に此この演習の二三日前などは学校裏の崇政殿という、昔の李王朝の宮殿址の前に引張られて、あわや殴られようとしたのを、折よく其処を生徒監が通りかかったために危く免れたのだという。

11 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 04:59:53 ID:XwosTMES0.net

 袁傪は恐怖を忘れ、馬から下りて叢に近づき、懷かしげに久濶を叙した。そして、何故叢から出て來ないのかと問うた。

李徴の聲が答へて言ふ。自分は今や異類の身となつてゐる。どうして、おめゝゝと故人の前にあさましい姿をさらせようか。且つ又、自分が姿を現せば、必ず君に畏怖嫌厭の情を起させるに決つてゐるからだ。

しかし、今、圖らずも故人に遇ふことを得て、愧赧[きたん]の念をも忘れる程に懷かしい。どうか、ほんの暫くでいいから、我が醜惡な今の外形を厭はず、曾て君の友李徴であつた此の自分と話を交して呉れないだらうか。

82 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:56:30.10 ID:8jUsfA1e0.net

>>71
学のないワイちゃんには平仄とか分からん😡

41 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:15:43.21 ID:M020f2rM0.net

(文禄4年)3月11日小西行長書状 島津義弘宛

尚々虎弐ツ被成御取事、誠奇特存事候、以上、

御状拝見申候、仍為虎狩此表御逗留候て、虎弐疋まて被成御取候事、誠御満足致推察候、
殊鹿之えた(鹿の足)弐拾被懸御意候、忝存事候、猶七右衛門尉(滝重時)可申上候条、不能詳候、恐惶謹言、

小摂守
三月十一日 行長(花押)

羽兵様
御報

46 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:18:39.94 ID:M020f2rM0.net

>>44
せや
島津義弘が虎二匹捕まえたことに対して小西行長が凄いですねって言ってる

52 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:22:52 ID:XwosTMES0.net

 さて、虎狩の話の前に、一人の友達のことを話して置かねばならぬ。その友達の名は趙大煥といった。名前で分るとおり、彼は半島人だった。

彼の母親は内地人だと皆が云っていた。私はそれを彼の口から親しく聞いたような気もするが、或いは私自身が自分で勝手にそう考えて、きめこんでいただけかも知れぬ。あれだけ親しく付合っていながら、ついぞ私は彼のお母さんを見たことがなかった。

兎に角、彼は日本語が非常に巧みだった。それに、よく小説などを読んでいたので、植民地あたりの日本の少年達が聞いたこともないような江戸前の言葉さえ知っていた位だ。で、一見して彼を半島人と見破ることは誰にも出来なかった。

4 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 04:57:35 ID:XwosTMES0.net

 隴西の李徴は博學才穎、天寶の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃む所頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかつた。
いくばくもなく官を退いた後は、故山、虢略に歸臥し、人と交を絶つて、ひたすら詩作に耽つた。下吏となつて長く膝を俗惡な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺さうとしたのである。

しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐うて苦しくなる。李徴は漸く焦躁に驅られて來た。この頃から其の容貌も峭刻となり、肉落ち骨秀で、眼光のみ徒らに烱々として、曾て進士に登第した頃の豐頬の美少年の俤は、何處に求めやうもない。

39 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:14:38.71 ID:8zOed3/90.net

>>33
そうやったんか
りちょうは自分のことやったんか
すげえ納得したわさんがつき!!!

47 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:19:02.51 ID:XwosTMES0.net

 私は虎狩の話をしようと思う。虎狩といってもタラスコンの英雄タルタラン氏の獅子狩のようなふざけたものではない。正真正銘の虎狩だ。

場所は朝鮮の、しかも京城から二十里位しか隔たっていない山の中、というと、今時そんな所に虎が出て堪るものかと云って笑われそうだが、何しろ今から二十年程前迄は、京城といっても、その近郊東小門外の平山牧場の牛や馬がよく夜中にさらわれて行ったものだ。

もっとも、これは虎ではなく、豺(ぬくて)という狼の一種にとられるのであったが、とにかく郊外の夜中の独り歩きはまだ危険な頃だった。

43 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:16:55 ID:XwosTMES0.net

>>39
李徴=作者の中島敦ってわけでもないけどな
作家が作品のキャラに自分を重ねとるとは限らん
中島敦自身は作品を知人に見てもらったりしとるし

28 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:07:43.23 ID:XwosTMES0.net

己れには最早人間としての生活は出來ない。たとへ、今、己れが頭の中で、どんな優れた詩を作つたにした所で、どういふ手段で發表できよう。

まして、己れの頭は日毎に虎に近づいて行く。

どうすればいいのだ。己れの空費された過去は? 己れは堪らなくなる。

さういふ時、己れは、向うの山の頂の巖に上り、空谷に向つて吼える。この胸を灼く悲しみを誰かに訴へたいのだ。

67 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:40:27.95 ID:XwosTMES0.net

「どうだ!」と、熱心に見詰めている私の傍で、趙が得意気に言った。

 硝子の厚みのために緑色に見える気泡の上昇する行列。底に敷かれた細かい白い砂。そこから生えている巾の狭い水藻。その間に装飾風の尾鰭を大切そうに静かに動かして泳いでいる菱形の魚。
こういうものをじっと眺めている中に、私は何時の間にか覗き眼鏡で南洋の海底でも覗いているような気になってしまっていた。

19 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:03:47 ID:XwosTMES0.net

 袁傪はじめ一行は、息をのんで、叢中の聲の語る不思議に聞入つてゐた。聲は續けて言ふ。

 他でもない。自分は元來詩人として名を成す積りでゐた。しかも、業未だ成らざるに、この運命に立至つた。曾て作る所の詩數百篇、固より、まだ世に行はれてをらぬ。遺稿の所在も最早判らなくなつてゐよう。

所で、その中、今も尚記誦せるものが數十ある。之を我が爲に傳録して戴き度いのだ。
何も、之に仍つて一人前の詩人面をしたいのではない。作の巧拙は知らず、とにかく、産を破り心を狂はせて迄自分が生涯それに執著した所のものを、一部なりとも後代に傳へないでは、死んでも死に切れないのだ。

7 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 04:58:22.22 ID:XwosTMES0.net

一年の後、公用で旅に出、汝水のほとりに宿つた時、遂に發狂した。

或夜半、急に顏色を變へて寢床から起上ると、何か譯の分らぬことを叫びつつ其の儘下にとび下りて、闇の中へ駈出した。彼は二度と戻つて來なかつた。附近の山野を搜索しても、何の手掛りもない。その後李徴がどうなつたかを知る者は、誰もなかつた。

54 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:26:21.74 ID:XwosTMES0.net

私はすっかり厭な気持になって了って、その時間が終ると大急ぎで教室を抜け出し、まだ一人も友達のいない運動場の隅っこに立ったまま、泣出したい気持でしょんぼり空を眺めた。

今でも覚えているが、その日は猛烈な砂埃が深い霧のようにあたりに立罩め、太陽はそのうす濁った砂の霧の奥から、月のようなうす黄色い光をかすかに洩らしていた。

あとで解ったのだけれども、朝鮮から満洲にかけては一年に大抵一度位はこのような日がある。つまり蒙古のゴビ砂漠に風が立って、その砂塵が遠く運ばれてくるのだ。

その日、私は初めて見るその物すさまじい天候に呆気あっけに取られて、運動場の界の、丈たけの高いポプラの梢が、その白い埃の霧の中に消えているあたりを眺めながら、直ぐにじゃりじゃりと砂の溜ってくる口から、絶えずペッペッと唾を吐き棄てていた。

すると突然横合から、奇妙な、ひきつった、ひやかすような笑いと共に、「ヤアイ、恥ずかしいもんだから、むやみと唾ばかり吐いてやがる。」という声が聞えた。

51 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:21:52 ID:XwosTMES0.net

此この話を京城日報で読んだ時、私はおかしくておかしくて仕方がなかった。
ふだん、あんなに威張っている巡査が――その頃の朝鮮は、まだ巡査の威張れる時代だった。
――どんなに其の時はうろたえて、椅子や卓子や、その他のありったけのがらくたを大掃除の時のように扉の前に積み上げたかを考えると、少年の私はどうしても笑わずにはいられなかった。

それに、そのやって来た二匹連れの虎というのが――後肢で立上ってガリガリやって巡査をおどしつけた其の二匹の虎が、どうしても私には本物の虎のような気がしなくて、
脅やかされた当の巡査自身のように、サアベルを提げ長靴でもはき、ぴんと張った八字髭ひげでも撫上げながら、「オイ、コラ」とか何とか言いそうな、稚気満々たるお伽話の国の虎のように思えてならなかったのだ。

80 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:56:02 ID:XwosTMES0.net

――そんなに惡いとは思はんです。
――なに?惡いとは思はん?――と今度は別の太い聲がのしかかるやうに響いた。
――生意氣だぞ。貴様!

それと共に、明らかにピシヤリと平手打の音が、そして次に銃が砂の上に倒れるらしい音と、更にまた激しく身體を突いたやうな鈍い音が二三度、それに續いて聞えた。私は咄嗟に凡てを諒解した。

私には惡い豫感があつたのだ。ふだんから懀まれてゐる趙のことではあり、それに晝間のやうな出來事があつたりしたので、或ひは今夜のやうな機會にやられるのではないかと、宵の中から私はそんな氣がしてゐた。それが今、ほんたうに行はれたらしいのだ。

私は天幕の中で身を起したが、どうする譯にも行かず、たゞ胸をとどろかしたまま、暫くじつと外の様子を窺つてゐた。(外ほかの友人達は皆よく眠つてゐた。)

68 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:41:56.41 ID:XwosTMES0.net

が、併しかし又、其その時、私には趙の感激の仕方が、あまり仰々しすぎると考えられた。彼の「異国的な美」に対する愛好は前からよく知ってはいたけれども、此この場合の彼の感動には多くの誇張が含まれていることを私は見出し、そして、その誇張を挫いてやろうと考えた。

で、一通り見終ってから三越を出、二人して本町通を下って行った時、私は彼にわざとこう云ってやった。

 ――そりゃ綺麗でないことはないけれど、だけど、日本の金魚だってあの位は美しいんだぜ。――

 反応は直ぐに現れた。口を噤んだまま正面から私を見返した彼の顔付は――その面皰のあとだらけな、例によって眼のほそい、鼻翼の張った、脣の厚い彼の顔は、
私の、繊細な美を解しないことに対する憫笑や、又、それよりも、今の私の意地の悪いシニカルな態度に対する抗議や、そんなものの交りあった複雑な表情で忽ち充たされて了ったのである。

その後一週間程、彼は私に口をきかなかったように憶えている。…………

64 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:37:31 ID:XwosTMES0.net

>>48
もう小説はインテリのためのものではなくなったしインテリという文化そのものが破壊されてしまった

61 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:33:35 ID:XwosTMES0.net

ある時、趙はまじめになって私にその事を洩らしたことがあった。

はじめは自分もそれ程ではなかったのだが、年上の友人の一人がその少女の美しさを讃めるのを聞いてから、急に堪らなく其の少女が貴く美しいものに思えてきたと、その時彼はそんなことを云った。

口には出さなかったけれども、神経質な彼が此の事についても又、事新しく、半島人とか内地人とかいう問題にくよくよ心を悩ましたろうことは推察に難くない。

24 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:05:30 ID:8zOed3/90.net

これって当時小説を好んで読んでいた知的エリートに向けた作品なんかな

50 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:21:25 ID:vv1CY8MO0.net

神定期

81 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:56:27.39 ID:XwosTMES0.net

落ちる

48 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:19:18 ID:L4HnZuj20.net

作家の教養として漢詩が読めて書けるっての無くなったな
残念なことや

69 :風吹けば名無し:2019/12/02(月) 05:43:17.68 ID:8jUsfA1e0.net

下級労働者ワイちゃんの漢詩ポエム誰か評価してや
現場集合住宅訪
階段閑散発音寂
思返幼年友宅遊
今唯日銭口糊凌
来冬風寒防病辱
我我壊体無誰祐
日日耳生不無理
静待枯木花開刻