明け方に山月記を読み返す🌖⛰🐅

1 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:04:54.79 ID:JtAX5MWa0.net
🐯・・・

47 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:27:12.44 ID:xzgNBh400.net

こんな時間に読み耽ってしまった

69 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:39:20.68 ID:L30r96Y50.net

俺は名人伝の方が好き

10 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:08:14 ID:7ywTV0RNa.net

>>1でスレ立てられるかどうか確認してるの草

11 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:08:29 ID:JtAX5MWa0.net

虎は、あはや袁傪に躍りかかるかと見えたが、忽ち身を飜して、元の叢に隱れた。

叢の中から人間の聲で「あぶない所だつた」と繰返し呟くのが聞えた。其の聲に袁傪は聞き憶えがあつた。驚懼の中にも、彼は咄嗟に思ひあたつて、叫んだ。「其の聲は、我が友、李徴子ではないか?」

袁傪は李徴と同年に進士の第に登り、友人の少かつた李徴にとつては、最も親しい友であつた。温和な袁傪の性格が、峻峭な李徴の性情と衝突しなかつたためであらう。

 叢の中からは、暫く返辭が無かつた。しのび泣きかと思はれる微かな聲が時々洩れるばかりである。ややあつて、低い聲が答へた。「如何にも自分は隴西の李徴である」と。

38 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:18:52.00 ID:JtAX5MWa0.net

文字禍 中島敦

38 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:18:52.00 ID:JtAX5MWa0.net

文字禍 中島敦

42 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:23:35.71 ID:6rbkQd/i0.net

あと、虎になって一日の大部分で人間の理性を失うっていうのは、
アル中かヤク中のことを暗喩してると思うね

5 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:06:06 ID:JtAX5MWa0.net

數年の後、貧窮に堪へず、妻子の衣食のために遂に節を屈して、再び東へ赴き、一地方官吏の職を奉ずることになつた。

一方、之は、己の詩業に半ば絶望したためでもある。曾ての同輩は既に遙か高位に進み、彼が昔、鈍物として齒牙にもかけなかつた其の連中の下命を拜さねばならぬことが、往年の儁才李徴の自尊心を如何に傷つけたかは、想像に難くない。

彼は怏々として樂しまず、狂悖の性は愈々抑へ難くなつた。

73 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:43:46.30 ID:JtAX5MWa0.net

>>67
休日なら翌朝の心配いらんから立ててることも多い

51 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:29:33.04 ID:JtAX5MWa0.net

さて、こうして、おかしな統計が出来上った。

それによれば、文字を覚えてから急に虱を捕るのが下手になった者、眼に埃がはいるようになった者、今まで良く見えた空の鷲の姿が見えなくなった者、空の色が以前ほど碧くなくなったという者などが、圧倒的に被い。

「文字ノ精ガ人間ノ眼ヲ喰ヒアラスコト、猶、蛆虫ガ胡桃ノ固キ殻を穿チテ、中ノ実ヲ巧ニ喰ヒツクスガ如シ」と、ナブ・アヘ・エリバは、新しい粘土の備忘録に誌した。

文字を覚えて以来、咳が出始めたという者、くしゃみが出るようになって困るという者、しゃっくりが度々出るようになった者、下痢するようになった者なども、かなりの数に上る。

「文字ノ精ハ人間ノ鼻・咽喉・腹等ヲモ犯スモノノ如シ」と、老博士はまた誌した。

9 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:08:04.87 ID:JtAX5MWa0.net

>>6
絵本はテキストとして貼れんやろ

44 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:25:05.38 ID:J2KqgvcLd.net

高校の教科書ってホント名作揃いだよな
理系でラノベしか読んでなかったワイも舞姫の事後描写がエッチエチで森鴎外ってすげぇんやなって感心したわ

77 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:51:13.69 ID:JtAX5MWa0.net

旧字体を新字体に変えればこうなる
これで7割読めれば原文で余裕やがんばれ

しかし、その、人間にかえる数時間も、日を経るに従って次第に短くなって行く。今までは、どうして虎などになったかと怪しんでいたのに、この間ひょいと気が付いて見たら、己れはどうして以前、人間だったのかと考えていた。これは恐しいことだ。

今少し経てば、己れの中の人間の心は、獣としての習慣の中にすっかり埋れて消えて了うだろう。ちょうど、古い宮殿の礎が次第に土砂に埋没するように。

そうすれば、しまいに己れは自分の過去を忘れ果て、一匹の虎として狂い廻り、今日のように途で君と出会っても故人と認めることなく、君を裂き喰うて何の悔も感じないだろう。

一体、獣でも人間でも、もとは何か他のものだったんだろう。初めはそれを憶えているが、次第に忘れて了い、初めから今の形のものだったと思い込んでいるのではないか? いや、そんな事はどうでもいい。

己れの中の人間の心がすっかり消えて了えば、恐らく、その方が、己れはしあわせになれるだろう。だのに、己れの中の人間は、その事を、この上なく恐しく感じているのだ。

ああ、全く、どんなに、恐しく、哀しく、切なく思っているだろう! 己れが人間だった記憶のなくなることを。この気持は誰にも分らない。誰にも分らない。己れと同じ身の上に成った者でなければ。

35 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:17:57.66 ID:JtAX5MWa0.net

 袁傪は叢に向つて、懇ろに別れの言葉を述べ、馬に上つた。叢の中からは、又、堪へ得ざるが如き悲泣の聲が洩れた。袁傪も幾度か叢を振返りながら、涙の中に出發した。

21 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:12:50.77 ID:JtAX5MWa0.net

いや、そんな事はどうでもいい。己れの中の人間の心がすつかり消えて了へば、恐らく、その方が、己れはしあはせになれるだらう。
だのに、己れの中の人間は、その事を、此の上なく恐しく感じてゐるのだ。ああ、全く、どんなに、恐しく、哀しく、切なく思つてゐるだらう! 己れが人間だつた記憶のなくなることを。

この氣持は誰にも分らない。誰にも分らない。己れと同じ身の上に成つた者でなければ。所で、さうだ。己れがすつかり人間でなくなつて了ふ前に、一つ頼んで置き度いことがある。

59 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:35:42 ID:4OwQ6sCl0.net

>>53 今大学生やが高校の頃はあんま読めてなかったな
先生の解説聞いてはえーってなってたくらいや
がんばって読んでみるで
サンガツ

67 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:38:42.07 ID:TrV1cI8G0.net

土日もやってるの?

20 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:12:33.86 ID:JtAX5MWa0.net

今少し經てば、己れの中の人間の心は、獸としての習慣の中にすつかり埋れて消えて了ふだらう。恰度、古い宮殿の礎が次第に土砂に埋沒するやうに。

さうすれば、しまひに己れは自分の過去を忘れ果て、一匹の虎として狂ひ廻り、今日の樣に途で君と出會つても故人と認めることなく、君を裂き喰うて何の悔も感じないだらう。

一體、獸でも人間でも、もとは何か他のものだつたんだらう。初めはそれを憶えてゐたが、次第に忘れて了ひ、初めから今の形のものだつたと思ひ込んでゐるのではないか? 

28 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:15:05.44 ID:JtAX5MWa0.net

 時に、殘月、光冷やかに、白露は地に滋く、樹間を渡る冷風は既に曉の近きを告げてゐた。人々は最早、事の奇異を忘れ、肅然として、この詩人の薄倖を嘆じた。李徴の聲は再び續ける。

 何故こんな運命になつたか判らぬと、先刻は言つたが、しかし、考へやうに依れば、思ひ當ることが全然ないでもない。
人間であつた時、己れは努めて人との交を避けた。人々は己れを倨傲だ、尊大だといつた。實は、それが殆ど羞恥心に近いものであることを、人々は知らなかつた。

勿論、曾ての郷黨の秀才だつた自分に、自尊心が無かつたとは云はない。しかし、それは臆病な自尊心とでもいふべきものであつた。

31 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:16:31.66 ID:JtAX5MWa0.net

>>24
ええけど

>>26
袁傪やなくて李徴なんか

64 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:37:35.73 ID:JtAX5MWa0.net

 ボルシッパなる明智の神ナブウの召使いたもう文字の精霊共の恐しい力を、イシュディ・ナブよ、君はまだ知らぬとみえるな。

文字の精共が、一度ある事柄を捉えて、これを己の姿で現すとなると、その事柄はもはや、不滅の生命を得るのじゃ。反対に、文字の精の力ある手に触れなかったものは、いかなるものも、その存在を失わねばならぬ。

太古以来のアヌ・エンリルの書に書上げられていない星は、なにゆえに存在せぬか? それは、彼等がアヌ・エンリルの書に文字として載せられなかったからじゃ。

大マルズック星(木星)が天界の牧羊者(オリオン)の境を犯せば神々の怒が降るのも、月輪の上部に蝕が現れればフモオル人が禍を蒙るのも、皆、古書に文字として誌されてあればこそじゃ。

古代スメリヤ人が馬という獣を知らなんだのも、彼等の間に馬という字が無かったからじゃ。

この文字の精霊の力ほど恐ろしいものは無い。君やわしらが、文字を使って書きものをしとるなどと思ったら大間違い。わしらこそ彼等文字の精霊にこき使われる下僕[しもべ]じゃ。

しかし、また、彼等精霊の齎す害も随分ひどい。わしは今それについて研究中だが、君が今、歴史を誌した文字に疑を感じるようになったのも、つまりは、君が文字に親しみ過ぎて、その霊の毒気に中ったためであろう。

74 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:44:32.97 ID:c6zmkRmp0.net

ありがとう🤗

58 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:35:34 ID:JtAX5MWa0.net

 たまたまアシュル・バニ・アパル大王が病に罹られた。侍医のアラッド・ナナは、この病軽からずと見て、大王のご衣裳を借り、自らこれをまとうて、アッシリヤ王に扮した。これによって、死神エレシュキガルの眼を欺き、病を大王から己の身に転じようというのである。

この古来の医家の常法に対して、青年の一部には、不信の眼を向ける者がある。これは明らかに不合理だ、エレシュキガル神ともあろうものが、あんな子供瞞しの計に欺かれるはずがあるか、と、彼等らは言う。

34 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:17:46.86 ID:JtAX5MWa0.net

 言終つて、叢中から慟哭の聲が聞えた。袁傪も亦涙を泛べ、欣んで李徴の意に副ひ度い旨を答へた。李徴の聲は併し忽ち又先刻の自嘲的な調子に戻つて、言つた。

 本當は、先づ、この事の方を先にお願ひすべきだつたのだ、己れが人間だつたなら。飢ゑ凍えようとする妻子のことよりも、己の乏しい詩業の方を氣にかけてゐる樣な男だから、こんな獸に身を墮すのだ。

 さうして、附加へて言ふことに、袁傪が嶺南からの歸途には決して此の途を通らないで欲しい、其の時には自分が醉つてゐて故人を認めずに襲ひかかるかも知れないから。

又、今別れてから、前方百歩の所にある、あの丘に上つたら、此方を振りかへつて見て貰ひ度い。自分は今の姿をもう一度お目に掛けよう。勇に誇らうとしてではない。我が醜惡な姿を示して、以て、再び此處を過ぎて自分に會はうとの氣持を君に起させない爲であると。

65 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:38:01.96 ID:JtAX5MWa0.net

 若い歴史家は妙な顔をして帰って行った。老博士はなおしばらく、文字の霊の害毒があの有為な青年をも害おうとしていることを悲しんだ。文字に親しみ過ぎてかえって文字に疑を抱くことは、決して矛盾ではない。

先日博士は生来の健啖に任せて羊の炙肉をほとんど一頭分も平らげたが、その後当分、生きた羊の顔を見るのも厭になったことがある。

 青年歴史家が帰ってからしばらくして、ふと、ナブ・アヘ・エリバは、薄くなった縮れっ毛の頭を抑おさえて考え込こんだ。

今日は、どうやら、わしは、あの青年に向って、文字の霊の威力を讃美しはせなんだか? いまいましいことだ、と彼は舌打をした。わしまでが文字の霊にたぶらかされておるわ。

37 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:18:19 ID:JtAX5MWa0.net

(昭和17年2月發表)

54 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:32:29.07 ID:JtAX5MWa0.net

文字を覚えてから、俄に頭髪の薄くなった者もいる。脚の弱くなった者、手足の顫えるようになった者、顎がはずれやすくなった者もいる。

しかし、ナブ・アヘ・エリバは最後にこう書かねばならなかった。「文字ノ害タル、人間ノ頭脳ヲ犯シ、精神ヲ麻痺セシムルニ至ツテ、スナハチ極マル。」

文字を覚える以前に比べて、職人は腕が鈍り、戦士は臆病になり、猟師は獅子を射損うことが多くなった。これは統計の明らかに示す所である。

文字に親しむようになってから、女を抱いても一向楽しゅうなくなったという訴えもあった。もっとも、こう言出したのは、七十歳を越した老人であるから、これは文字の所為ではないかも知れぬ。

40 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:20:18.11 ID:JtAX5MWa0.net

 文字の霊などというものが、一体、あるものか、どうか。

 アッシリヤ人は無数の精霊を知っている。夜、闇の中を跳梁するリル、その雌のリリツ、疫病をふり撒まくナムタル、死者の霊エティンム、誘拐者ラバス等など、数知れぬ悪霊共がアッシリヤの空に充ち満ちている。しかし、文字の精霊については、まだ誰も聞いたことがない。

 その頃ころ――というのは、アシュル・バニ・アパル大王の治世第二十年目の頃だが――ニネヴェの宮廷に妙な噂があった。毎夜、図書館の闇の中で、ひそひそと怪しい話し声がするという。

25 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:14:10 ID:JtAX5MWa0.net

>>22
そりゃワイだって李陵のが好きやけど

4 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:05:45.16 ID:JtAX5MWa0.net

 隴西の李徴は博學才穎、天寶の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃む所頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかつた。
いくばくもなく官を退いた後は、故山、虢略に歸臥し、人と交を絶つて、ひたすら詩作に耽つた。下吏となつて長く膝を俗惡な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺さうとしたのである。

しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐うて苦しくなる。李徴は漸く焦躁に驅られて來た。この頃から其の容貌も峭刻となり、肉落ち骨秀で、眼光のみ徒らに烱々として、曾て進士に登第した頃の豐頬の美少年の俤は、何處に求めやうもない。

14 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:09:25.69 ID:GINstCaQ0.net

このスレいつも立ってんな
ワイは好きやで

2 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:05:20 ID:JtAX5MWa0.net

山月記 中島敦

32 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:17:04.15 ID:JtAX5MWa0.net

己れには最早人間としての生活は出來ない。たとへ、今、己れが頭の中で、どんな優れた詩を作つたにした所で、どういふ手段で發表できよう。

まして、己れの頭は日毎に虎に近づいて行く。どうすればいいのだ。己れの空費された過去は? 己れは堪らなくなる。

さういふ時、己れは、向うの山の頂の巖に上り、空谷に向つて吼える。この胸を灼く悲しみを誰かに訴へたいのだ。

己れは昨夕も、彼處で月に向つて咆えた。誰かに此の苦しみが分つて貰へないかと。
しかし、獸どもは己れの聲を聞いて、唯、懼れ、ひれ伏すばかり。山も樹も月も露も、一匹の虎が怒り狂つて、哮つてゐるとしか考へない。天に躍り地に伏して嘆いても、誰一人己れの氣持を分つて呉れる者はない。

恰度、人間だつた頃、己れの傷つき易い内心を誰も理解して呉れなかつたやうに。己れの毛皮の濡れたのは、夜露のためばかりではない。

45 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:25:22.01 ID:JtAX5MWa0.net

 その日以来、ナブ・アヘ・エリバ博士は、日ごと問題の図書館(それは、その後二百年にして地下に埋没し、更さらに二千三百年にして偶然発掘される運命をもつものであるが)に通って万巻の書に目をさらしつつ研鑽に耽った。

両河地方[メソポタミヤ]では埃及[エジプト]と違って紙草[パピルス]を産しない。人々は、粘土の板に硬筆をもって複雑な楔形の符号を彫りつけておった。書物は瓦であり、図書館は瀬戸物屋の倉庫に似ていた。

老博士の卓子テーブル(その脚には、本物の獅子の足が、爪さえそのままに使われている)の上には、毎日、累々たる瓦の山がうずたかく積まれた。それら重量ある古知識の中から、彼は、文字の霊についての説を見出だそうとしたが、無駄であった。
文字はボルシッパなるナブウの神の司りたもう所とより外には何事も記されていないのである。

46 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:26:32 ID:JtAX5MWa0.net

>>43
山月記なら教科書のが多少読みやすい
教科書じゃなくとも文庫なら語注が多いからマシや
角川つばさ文庫版とかもあるけどそこまでいくと文章だいぶ違う

70 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:39:26.25 ID:JtAX5MWa0.net

彼は怖くなって、早々に研究報告を纏め上げ、これをアシュル・バニ・アパル大王に献じた。但し、中に、若干の政治的意見を加えたことはもちろんである。

武の国アッシリヤは、今や、見えざる文字の精霊のために、全く蝕まれてしまった。しかも、これに気付いている者はほとんど無い。今にして文字への盲目的崇拝を改めずんば、後に臍を噬むとも及ばぬであろう云々。

66 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:38:39.77 ID:JtAX5MWa0.net

 実際、もう大分前から、文字の霊がある恐しい病を老博士の上に齎[もたら]していたのである。

それは彼が文字の霊の存在を確かめるために、一つの字を幾日もじっと睨み暮した時以来のことである。

その時、今まで一定の意味と音とを有っていたはずの字が、忽然と分解して、単なる直線どもの集りになってしまったことは前に言った通りだが、それ以来、それと同じような現象が、文字以外のあらゆるものについても起るようになった。

6 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:06:13 ID:kEnQ0pAM0.net

ちびくろサンボも読み返そうぜ

75 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:46:49.40 ID:JtAX5MWa0.net

>>74
文字禍ええよな
真面目なところと冗談めかしたとこの比率が中島敦っぽくてすこ

27 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:14:33.14 ID:JtAX5MWa0.net

 舊詩を吐き終つた李徴の聲は、突然調子を變へ、自らを嘲るが如くに言つた。

 羞しいことだが、今でも、こんなあさましい身と成り果てた今でも、己れは、己れの詩集が長安風流人士の机の上に置かれてゐる樣を、夢に見ることがあるのだ。岩窟の中に横たはつて見る夢にだよ。嗤つて呉れ。詩人に成りそこなつて虎になつた哀れな男を。

(袁傪は昔の青年李徴の自嘲癖を思出しながら、哀しく聞いてゐた。)

さうだ。お笑ひ草ついでに、今の懷を即席の詩に述べて見ようか。この虎の中に、まだ、曾ての李徴が生きてゐるしるしに。

 袁傪は又下吏に命じて之を書きとらせた。その詩に言ふ。

偶因狂疾成殊類  災患相仍不可逃
今日爪牙誰敢敵  當時聲跡共相高
我爲異物蓬茅下  君已乘軺氣勢豪
此夕溪山對明月  不成長嘯但成嘷

16 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:10:17.36 ID:JtAX5MWa0.net

少し明るくなつてから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既に虎となつてゐた。自分は初め眼を信じなかつた。

次に、之は夢に違ひないと考へた。夢の中で、之は夢だぞと知つてゐるやうな夢を、自分はそれ迄に見たことがあつたから。どうしても夢でないと悟らねばならなかつた時、自分は茫然とした。

さうして、懼れた。全く、どんな事でも起り得るのだと思うて、深く懼れた。

26 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:14:25.32 ID:6rbkQd/i0.net

前職の同僚に偶然再会したら、李徴はこんな気分だったのかなと思ったね

18 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:11:10.17 ID:JtAX5MWa0.net

>>14
ありがとう
時々でいいから山月記を読んでくれ

22 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:13:11.04 ID:Vnkg1KWL0.net

李陵でやれ

3 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:05:39 ID:Q0/xt+cd0.net

あやべえ寝なきゃ

29 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:15:33.68 ID:JtAX5MWa0.net

己れは詩によつて名を成さうと思ひながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交つて切磋琢磨に努めたりすることをしなかつた。かといつて、又、己れは俗物の間に伍することも潔しとしなかつた。共に、我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所爲である。

己の珠に非ざることを惧れるが故に、敢て刻苦して磨かうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々として瓦に伍することも出來なかつた。

己れは次第に世と離れ、人と遠ざかり、憤悶と慙恚とによつて益々己の内なる臆病な自尊心を飼ひふとらせる結果になつた。

人間は誰でも猛獸使であり、その猛獸に當るのが、各人の性情だといふ。己れの場合、この尊大な羞恥心が猛獸だつた。虎だつたのだ。之が己を損ひ、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形を斯くの如く、内心にふさはしいものに變へて了つたのだ。

7 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:06:23.34 ID:JtAX5MWa0.net

一年の後、公用で旅に出、汝水のほとりに宿つた時、遂に發狂した。

或夜半、急に顏色を變へて寢床から起上ると、何か譯の分らぬことを叫びつつ其の儘下にとび下りて、闇の中へ駈出した。

彼は二度と戻つて來なかつた。附近の山野を搜索しても、何の手掛りもない。その後李徴がどうなつたかを知る者は、誰もなかつた。

53 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:31:38.93 ID:JtAX5MWa0.net

>>49
漢文みたいで難しく見えるのって>>4>>5だけでそっから先はそうでもないで

古文とは違うから語注さえあれば読めると思うけどなあ
高校の頃は読めたんか?

36 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:18:10 ID:JtAX5MWa0.net

 一行が丘の上についた時、彼等は、言はれた通りに振返つて、先程の林間の草地を眺めた。忽ち、一匹の虎が草の茂みから道の上に躍り出たのを彼等は見た。

虎は、既に白く光を失つた月を仰いで、二聲三聲咆哮したかと思ふと、又、元の叢に躍り入つて、再び其の姿を見なかつた。

8 :風吹けば名無し:2019/12/17(火) 05:07:02 ID:JtAX5MWa0.net

 翌年、監察御史、陳郡の袁傪といふ者、勅命を奉じて嶺南に使し、途に商於の地に宿つた。

次の朝未だ暗い中に出發しようとした所、驛吏が言ふことに、これから先の道に人喰虎が出る故、旅人は白晝でなければ、通れない。今はまだ朝が早いから、今少し待たれたが宜しいでせうと。袁傪は、しかし、供廻りの多勢なのを恃み、驛吏の言葉を斥けて、出發した。

殘月の光をたよりに林中の草地を通つて行つた時、果して一匹の猛虎が叢の中から躍り出た。