夜明け前に山月記を読み返す🌘⛰🐅

1 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:01:30.37 ID:7ewsTX7G0.net
🐯・・・

27 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:10:58.91 ID:WbXH3kWYa.net

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100 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:57:09.10 ID:7ewsTX7G0.net

>>91
解説なんて聞くより本文読んだほうがええよ
読めなかったらまた今度漢字易しいの貼るわ

83 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:46:22.60 ID:7ewsTX7G0.net

>>79
きみは言うても虎になってないから李徴と比べればこれからどうにでもなる李徴はグッバイ

18 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:07:07 ID:aWjF3lxh0.net

言葉のリズム良すぎてラップ感ある

88 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:49:18.58 ID:X9EjNZJK0.net

>>85
だいたい読めるし読めなくても致命的じゃないからへーきへーき

13 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:05:10.48 ID:7ewsTX7G0.net

 後[あと]で考へれば不思議だつたが、其の時、袁傪は、この超自然の怪異を、實に素直に受容れて、少しも怪まうとしなかつた。彼は部下に命じて行列の進行を停め、自分は叢の傍に立つて、見えざる聲と對談した。

都の噂、舊友の消息、袁傪が現在の地位、それに對する李徴の祝辭。青年時代に親しかつた者同志の、あの隔てのない語調で、それ等が語られた後、袁傪は、李徴がどうして今の身となるに至つたかを訊ねた。草中の聲は次のやうに語つた。

31 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:11:20.95 ID:dSZUshLMa.net

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108 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 06:01:56.13 ID:7ewsTX7G0.net

>>103
メタファーやないで李徴はほんまに虎になっとるんやから
いやほんまに虎になっとるとは書かれとらんけど虎になってるってことは比喩でも暗喩でもなく本当のこと

80 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:43:48.38 ID:7ewsTX7G0.net

>>71
李徴はほんまに虎になったのか
言われてみれば李徴が虎になっていると言っているのは李徴の声だけで李徴が本当にそこにいたのかもわからない

61 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:31:05.84 ID:7ewsTX7G0.net

 紀昌は直ぐに西に向つて旅立つ。其の人の前に出ては我々の技に如き兒戲にひとしいと言つた師の言葉が彼の自尊心にこたへた。もしそれが本當だとすれば、天下第一を目指す彼の望も、まだまだ前途程遠い譯である。

己が業が兒戲に類するかどうか、兎にも角にも早く其の人に會つて腕を比べたいとあせりつつ、彼は只管に道を急ぐ。足裏を破り脛を傷つけ、危巖を攀ぢ棧道を渡つて、一月の後に彼は漸く目指す山巓に辿りつく。

60 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:30:19 ID:7ewsTX7G0.net

 涙にくれて相擁しながらも、再び弟子が斯かる企みを抱くやうなことがあつては甚だ危いと思つた飛衞は、紀昌に新たな目標を與へて其の氣を轉ずるに如くはないと考へた。

彼は此の危險な弟子に向つて言つた。最早、傳ふべき程のことは悉く傳へた。儞がもし之以上斯の道の蘊奧を極めたいと望むならば、ゆいて西の方大行の嶮に攀ぢ、霍山の頂を極めよ。

そこには甘蠅老師とて古今を曠しうする斯道の大家がをられる筈。老師の技に比べれば、我々の射の如きは殆ど兒戲に類する。儞の師と頼むべきは、今は甘蠅師の外にあるまいと。

104 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 06:00:12 ID:7ewsTX7G0.net

>>98
泉鏡花なんて読みにくいやろって思うが
『鏡花氏こそは、まことに言葉の魔術師。感情装飾の幻術者』って中島敦が書いてるから泉鏡花のが上やね🤗

90 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:50:21.32 ID:7ewsTX7G0.net

>>85
中2のときから読んでるしへーきへーき
振り仮名振ったのもたまには貼るからゆるして

71 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:37:37.41 ID:E50dZZbda.net

李徴は虎になった

59 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:29:33.16 ID:7ewsTX7G0.net

(斯うした事を今日の道義觀を以て見るのは當らない。美食家の齊の桓公が己の未だ味はつたことのない珍味を求めた時、厨宰の易牙は己が息子を蒸燒にして之をすすめた。十六歳の少年、秦の始皇帝は父が死んだ其の晩に、父の愛妾を三度襲うた。凡てそのやうな時代の話である。)

87 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:48:11.52 ID:7O8rHRT30.net

>>85
もう何べんも読んどるし無くてもへーきへーき

34 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:12:30.77 ID:7ewsTX7G0.net

人間は誰でも猛獸使であり、その猛獸に當るのが、各人の性情だといふ。己れの場合、この尊大な羞恥心が猛獸だつた。虎だつたのだ。之が己を損ひ、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形を斯くの如く、内心にふさはしいものに變へて了つたのだ。

今思へば、全く、己れは、己れの有つてゐた僅かばかりの才能を空費して了つた譯だ。
人生は何事をも爲さぬには餘りに長いが、何事かを爲すには餘りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事實は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧と、刻苦を厭ふ怠惰とが己れの凡てだつたのだ。

己れよりも遙かに乏しい才能でありながら、それを專一に磨いたがために、堂々たる詩家となつた者が幾らでもゐるのだ。虎と成り果てた今、己れは漸くそれに氣が付いた。それを思ふと、己れは今も胸を灼かれるやうな悔を感じる。

12 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:04:52 ID:7ewsTX7G0.net

 袁傪は恐怖を忘れ、馬から下りて叢に近づき、懷かしげに久濶を叙した。そして、何故叢から出て來ないのかと問うた。

李徴の聲が答へて言ふ。自分は今や異類の身となつてゐる。どうして、おめゝゝと故人の前にあさましい姿をさらせようか。且つ又、自分が姿を現せば、必ず君に畏怖嫌厭の情を起させるに決つてゐるからだ。

しかし、今、圖らずも故人に遇ふことを得て、愧赧[きたん]の念をも忘れる程に懷かしい。どうか、ほんの暫くでいいから、我が醜惡な今の外形を厭はず、曾て君の友李徴であつた此の自分と話を交して呉れないだらうか。

106 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 06:01:36.87 ID:40K8cN3Mp.net

今週2回目の山月記

81 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:44:42 ID:7ewsTX7G0.net

>>78
ええんや
真剣に読んでたらたまたまレスしてなかった
読みづらくしてすまんな

20 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:10:16 ID:7ewsTX7G0.net

 袁傪はじめ一行は、息をのんで、叢中の聲の語る不思議に聞入つてゐた。聲は續けて言ふ。

 他でもない。自分は元來詩人として名を成す積りでゐた。しかも、業未だ成らざるに、この運命に立至つた。曾て作る所の詩數百篇、固より、まだ世に行はれてをらぬ。遺稿の所在も最早判らなくなつてゐよう。

所で、その中、今も尚記誦せるものが數十ある。之を我が爲に傳録して戴き度いのだ。
何も、之に仍つて一人前の詩人面をしたいのではない。作の巧拙は知らず、とにかく、産を破り心を狂はせて迄自分が生涯それに執著した所のものを、一部なりとも後代に傳へないでは、死んでも死に切れないのだ。

 袁傪は部下に命じ、筆を執つて叢中の聲に隨つて書きとらせた。李徴の聲は叢の中から朗々と響いた。長短凡そ三十篇、格調高雅、意趣卓逸、一讀して作者の才の非凡を思はせるものばかりである。

しかし、袁傪は感嘆しながらも漠然と次の樣に感じてゐた。成程、作者の素質が第一流に屬するものであることは疑ひない。しかし、この儘では、第一流の作品となるのには、何處か(非常に微妙な點に於て)缺ける所があるのではないか、と。

50 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:24:34.09 ID:7ewsTX7G0.net

 それを聞いて飛衞がいふ。瞬かざるのみでは未だ射を授けるに足りぬ。次には、視ることを學べ。視ることに熟して、さて、小を視ること大の如く、微を見ること著の如くなつたならば、來つて我に告げるがよいと。

72 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:37:39.71 ID:7ewsTX7G0.net

 雲と立罩める名聲の只中に、名人紀昌は次第に老いて行く。既に早く射を離れた彼の心は、益々枯淡虚靜の域にはひつて行つたやうである。木偶の如き顏は更に表情を失ひ、語ることも稀となり、つひには呼吸の有無さへ疑はれるに至つた。
「既に、我と彼との別、是と非との分を知らぬ。眼は耳の如く、耳は鼻の如く、鼻は口の如く思はれる。」といふのが老名人晩年の述懷である。

21 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:10:37 ID:ydG6Cpdza.net

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41 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:14:57.70 ID:7ewsTX7G0.net

 一行が丘の上についた時、彼等は、言はれた通りに振返つて、先程の林間の草地を眺めた。忽ち、一匹の虎が草の茂みから道の上に躍り出たのを彼等は見た。虎は、既に白く光を失つた月を仰いで、二聲三聲咆哮したかと思ふと、又、元の叢に躍り入つて、再び其の姿を見なかつた。

47 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:21:59.29 ID:7ewsTX7G0.net

 趙の邯鄲[かんたん] の都に住む紀昌といふ男が、天下第一の弓の名人にならうと志を立てた。
己の師と頼むべき人物を物色するに、當今弓矢をとつては、名手・飛衞に及ぶ者があらうとは思はれぬ。百歩を隔てて柳葉を射るに百發百中するといふ達人ださうである。紀昌は遙々飛衞をたづねて其の門に入つた。

26 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:10:55.71 ID:WbXH3kWYa.net

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7 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:02:51.78 ID:MMdNabkr0.net

さんがつ

17 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:07:05 ID:7ewsTX7G0.net

しかし、何故こんな事になつたのだらう。分らぬ。全く何事も我々には判らぬ。理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取つて、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ。

自分は直ぐに死を想うた。しかし、其の時、眼の前を一匹の兎が駈け過ぎるのを見た途端に、自分の中の人間は忽ち姿を消した。

再び自分の中の人間が目を覺ました時、自分の口は兎の血に塗れ、あたりには兎の毛が散らばつてゐた。之が虎としての最初の經驗であつた。

14 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:05:22 ID:Ov/hMzWF0.net

振り仮名ないと読めないからクソ定期

94 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:53:06 ID:8/bHRpqS0.net

あなや

77 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:41:46.51 ID:7ewsTX7G0.net

(昭和17年12月發表)

29 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:11:17.76 ID:dSZUshLMa.net

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55 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:27:26.74 ID:7ewsTX7G0.net

 目の基礎訓練に五年もかけた甲斐があつて紀昌の腕前の上達は、驚く程速い。

 奧儀傳授が始つてから十日の後、試みに紀昌が百歩を隔てて柳葉を射るに、既に百發百中である。二十日の後、一杯に水を湛へた盃を右肱の上に載せて剛弓を引くに、狙ひに狂ひの無いのは固より、杯中の水も微動だにしない。

一月の後、百本の矢を以て速射を試みた所、第一矢が的に中れば、續いて飛來つた第二の矢は誤たず第一矢の括に中つて突き刺さり、更に間髮を入れず第三矢の鏃が第二矢の括にガッシと喰ひ込む。

矢矢相屬し、發發相及んで、後矢の鏃は必ず前矢の括に喰入るが故に、絶えて地に墜ちることがない。瞬く中に、百本の矢は一本の如くに相連り、的から一直線に續いた其の最後の括は猶弦を銜むが如くに見える。傍で見てゐた師の飛衞も思はず「善し!」と言つた。

 二月の後、偶々家に歸つて妻といさかひをした紀昌が之を威さうとして烏號の弓に衞の矢をつがへきりりと引絞つて妻の目を射た。矢は妻の睫毛三本を射切つて彼方に飛び去つたが、射られた本人は一向に氣づかず、まばたきもしないで亭主を罵り續けた。

蓋し、彼の至藝による矢の速度と狙ひの精妙さとは、實に此の域に迄達してゐたのである。

16 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:05:54 ID:7ewsTX7G0.net

 今から一年程前、自分が旅に出て汝水のほとりに泊つた夜のこと、一睡してから、ふと眼を覺ますと、戸外で誰かが我が名を呼んでゐる。聲に應じて外へ出て見ると、聲は闇の中から頻りに自分を招く。

覺えず、自分は聲を追うて走り出した。

無我夢中で駈けて行く中に、何時しか途は山林に入り、しかも、知らぬ間に自分は左右の手で地を攫んで走つてゐた。何か身體中に力が充ち滿ちたやうな感じで、輕々と岩石を跳び越えて行つた。氣が付くと、手先や肱のあたりに毛を生じてゐるらしい。

少し明るくなつてから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既に虎となつてゐた。

自分は初め眼を信じなかつた。次に、之は夢に違ひないと考へた。夢の中で、之は夢だぞと知つてゐるやうな夢を、自分はそれ迄に見たことがあつたから。
どうしても夢でないと悟らねばならなかつた時、自分は茫然とした。さうして、懼れた。全く、どんな事でも起り得るのだと思うて、深く懼れた。

53 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:26:01.84 ID:7ewsTX7G0.net

或日ふと氣が付くと、窓の虱が馬の樣な大きさに見えてゐた。占めたと、紀昌は膝を打ち、表へ出る。

彼は我が目を疑つた。人は高塔であつた。馬は山であつた。豚は丘の如く、鷄は城樓と見える。
雀躍して家にとつて返した紀昌は、再び窓際の虱に立向ひ、燕角の弧[ゆみ]に朔蓬の簳[やがら]をつがへて之を射れば、矢は見事に虱の心の臟を貫いて、しかも虱を繋いだ毛さへ斷れぬ。

 紀昌は早速師の許に赴いて之を報ずる。飛衞は高蹈して胸を打ち、初めて「出かしたぞ」と褒めた。さうして、直ちに射術の奧儀秘傳を剩す所なく紀昌に授け始めた。

78 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:42:45 ID:6YTK2tcFr.net

>>74
全部貼り終わってからレスすればよかったわ
すまんな

42 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:15:15.45 ID:7ewsTX7G0.net

(昭和17年2月發表)

70 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:37:00 ID:7ewsTX7G0.net

 樣々な噂が人々の口から口へと傳はる。

毎夜三更を過ぎる頃、紀昌の家の屋上で何者の立てるとも知れぬ弓弦の音がする。名人の内に宿る射道の神が主人公の睡つてゐる間に體内を脱け出し、妖魔を拂ふべく徹宵守護に當つてゐるのだといふ。

彼の家の近くに住む一商人は或夜紀昌の家の上空で、雲に乘つた紀昌が珍しくも弓を手にして、古の名人・羿[げい]と養由基の二人を相手に腕比べをしてゐるのを確かに見たと言ひ出した。
その時三名人の放つた矢はそれぞれ夜空に青白い光芒を曳きつつ參宿と天狼星との間に消去つたと。

紀昌の家に忍び入らうとした所、塀に足を掛けた途端に一道の殺氣が森閑とした家の中から奔り出てまともに額を打つたので、覺えず外に顛落したと白状した盜賊もある。
爾來、邪心を抱く者共は彼の住居の十町四方は避けてり廻り道をし、賢い渡り鳥共は彼の家の上空を通らなくなつた。

62 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:31:46 ID:7ewsTX7G0.net

 氣負ひ立つ紀昌を迎へたのは、羊のような柔和な目をした、しかし酷くよぼよぼの爺さんである。年齡は百歳をも超えてゐよう。腰の曲つてゐるせゐもあつて、白髯は歩く時も地に曳きずつてゐる。

 相手が聾[つんぼ]かも知れぬと、大聲に遽だしく紀昌は來意を告げる。己が技の程を見て貰ひ度い旨を述べると、あせり立つた彼は相手の返辭をも待たず、いきなり背に負うた楊幹麻筋の弓を外して手に執つた。
さうして、石碣の矢をつがへると、折から空の高くを飛び過ぎて行く鳥の群に向つて狙ひを定める。弦に應じて、一箭忽ち五羽の大鳥が鮮やかに碧空を切つて落ちて來た。

96 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:55:05.60 ID:Ov/hMzWF0.net

BᷜUͤRͭGͧEᷚRͤ
みたいにうまいことやって

8 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:03:02.27 ID:7ewsTX7G0.net

一年の後、公用で旅に出、汝水のほとりに宿つた時、遂に發狂した。

或夜半、急に顏色を變へて寢床から起上ると、何か譯の分らぬことを叫びつつ其の儘下にとび下りて、闇の中へ駈出した。彼は二度と戻つて來なかつた。附近の山野を搜索しても、何の手掛りもない。その後李徴がどうなつたかを知る者は、誰もなかつた。

74 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:39:28.92 ID:7ewsTX7G0.net

>>57
その話であっとるが紀昌がボケたのかはわからない
単にボケただけかもしれないしボケた訳ではないのかもしれない

24 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:10:47 ID:ydG6Cpdza.net

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5 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:02:40.61 ID:7ewsTX7G0.net

數年の後、貧窮に堪へず、妻子の衣食のために遂に節を屈して、再び東へ赴き、一地方官吏の職を奉ずることになつた。

一方、之は、己の詩業に半ば絶望したためでもある。曾ての同輩は既に遙か高位に進み、彼が昔、鈍物として齒牙にもかけなかつた其の連中の下命を拜さねばならぬことが、往年の儁才李徴の自尊心を如何に傷つけたかは、想像に難くない。

彼は怏々として樂しまず、狂悖の性は愈々抑へ難くなつた

46 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:21:19.20 ID:7ewsTX7G0.net

名人傳 中島敦

102 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:58:46 ID:Ov/hMzWF0.net

教科書をスキャンして貼ればいいのでは?🤔

19 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:09:14 ID:7ewsTX7G0.net

 それ以來今迄にどんな所行をし續けて來たか、それは到底語るに忍びない。ただ、一日の中に必ず數時間は、人間の心が還つて來る。さういふ時には、曾ての日と同じく、人語も操れれば、複雜な思考にも堪へ得るし、經書の章句をも誦ずることも出來る。

その人間の心で、虎としての己の殘虐な行のあとを見、己の運命をふりかへる時が、最も情なく、恐しく、憤ろしい。

しかし、その、人間にかへる數時間も、日を經るに從つて次第に短くなつて行く。今迄は、どうして虎などになつたかと怪しんでゐたのに、此の間ひよいと氣が付いて見たら、己れはどうして以前、人間だつたのかと考へてゐた。之は恐しいことだ。

今少し經てば、己れの中の人間の心は、獸としての習慣の中にすつかり埋れて消えて了ふだらう。恰度、古い宮殿の礎が次第に土砂に埋沒するやうに。
さうすれば、しまひに己れは自分の過去を忘れ果て、一匹の虎として狂ひ廻り、今日の樣に途で君と出會つても故人と認めることなく、君を裂き喰うて何の悔も感じないだらう。
一體、獸でも人間でも、もとは何か他のものだつたんだらう。初めはそれを憶えてゐたが、次第に忘れて了ひ、初めから今の形のものだつたと思ひ込んでゐるのではないか? いや、そんな事はどうでもいい。

己れの中の人間の心がすつかり消えて了へば、恐らく、その方が、己れはしあはせになれるだらう。
だのに、己れの中の人間は、その事を、此の上なく恐しく感じてゐるのだ。ああ、全く、どんなに、恐しく、哀しく、切なく思つてゐるだらう! 己れが人間だつた記憶のなくなることを。

この氣持は誰にも分らない。誰にも分らない。己れと同じ身の上に成つた者でなければ。所で、さうだ。己れがすつかり人間でなくなつて了ふ前に、一つ頼んで置き度いことがある。

30 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:11:18.25 ID:7ewsTX7G0.net

 時に、殘月、光冷やかに、白露は地に滋く、樹間を渡る冷風は既に曉の近きを告げてゐた。人々は最早、事の奇異を忘れ、肅然として、この詩人の薄倖を嘆じた。李徴の聲は再び續ける。

 何故こんな運命になつたか判らぬと、先刻は言つたが、しかし、考へやうに依れば、思ひ當ることが全然ないでもない。
人間であつた時、己れは努めて人との交を避けた。人々は己れを倨傲だ、尊大だといつた。實は、それが殆ど羞恥心に近いものであることを、人々は知らなかつた。
勿論、曾ての郷黨の秀才だつた自分に、自尊心が無かつたとは云はない。しかし、それは臆病な自尊心とでもいふべきものであつた。

45 :風吹けば名無し:2019/11/23(土) 05:20:27 ID:mxaM42v90.net

昔読んだ時と今読んだ時とで刺さり方が違うわ