【SS】十年巻き戻って、十歳からやり直した感想

1 :コピペ:2019/12/25(水) 01:42:17.75 ID:CeSFsvbi0XMAS.net
これは多分、君が想像してるのとは、
正反対の話になるんだと思う。

だって、二十歳の記憶を持ったまま、
十歳の時点に戻ってやり直せるとしたら、
普通、その記憶を利用して色々するだろう?

一周目の反省や教訓を活かして、
もっと優れた二周目を目指すはずだ。

でも僕がしたことと言えば、
まさにその正反対のことだったんだ。
今思うと、馬鹿なことをしたと思うよ。本当に。

62 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:52:59.56 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

僕は頭をからっぽにしたかったんだ。
今まで以上に、色んなことを忘れたかった。
尾行する必要もなくなって、時間も余っていた。
それで、目についた短期アルバイトに、
片っ端から応募することにしたんだ。

毎日夜遅くにくたくたになって帰宅する僕を見て、
五回目の家出をしてきていた妹は、
「おにいちゃん、恋人でも出来た?」と聞いてきた。
今一番聞きたくない言葉だったね、まったく。

そんでね、どうせ予定もないのだからと、
年末までアルバイトを詰め込んだ僕だったけど、
ろくに内容の説明も読まなかったせいで、
クリスマス当日に、恋人の集まるデパートで、
抽選会の係をすることになっちまったんだよ。

42 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:49:33.04 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

かつての僕は、恋人のことを、完全に分かった気でいたな。
五年間、ずっと一緒にいて、実に色んなことを話したからね。
ところがさ、案外、僕の知らない面も存在したみたいなんだよ。

その日も僕は、妹に踏まれて目を覚ましたんだ。
「図書館に本返すから」と妹は言った。「市民の義務だから」
まあ、午後四時にぐっすり寝てる僕も悪いんだけどさ。

図書館につくと、妹は本の束を抱えて歩いて行った。
辺りは早くも薄暗くなってて、街灯が点きはじめてたね。

74 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:54:38 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

「二十歳のクリスマスで、ひどい雪の日だったな」
車を飛ばしながら、僕は助手席の彼女に言った。

「覚えてるかな? プレゼントを渡しあった僕たちは、
紅茶を飲みながら、テレビを見ていたんだ。
わざとヒーターはつけないで、二人で毛布を被ってさ。
ロウソクの火でわざわざ暖まったりして……、
そういうのが楽しかったんだ、その頃の僕たちは」

彼女は目を見開いて、僕の方を見つめる。
しかし彼女が何か言う前に、僕は先を続ける。

44 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:50:00.37 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

僕の元恋人はとっても礼儀正しい子だったからさ、
気まずそうな顔をしながらも、僕に挨拶したんだ。
相手が誰であれ、笑顔で挨拶してくれる子なんだよ。

僕も同じように挨拶しかえしたけど、内心、取り乱してたな。
彼女が喫煙者だなんてこと、僕は知らなかったし、
この図書館の利用者だってことも知らなかったんだ。

あれだけ話す機会を欲しがっておきながら、
いざとなると、何にも言葉が出てこないんだよ。
何か喋んなきゃ、って焦るばかりでさ。
なんとか会話を繋いで引きとめよう、ってね。

100 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 02:01:43 ID:N7m2J5C00XMAS.net

再現失敗したんやろ
しゃーないわ

49 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:50:53.49 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

言い忘れてたけど、僕の誕生日って言うのは、
十二月二十四日、クリスマスイブなんだよ。

そして僕の恋人は、クリスマスと誕生日が被るのは
嫌だということで、一週間前に祝うようにしていたんだ。

ドッペルゲンガーも僕と誕生日が同じらしくて、
lクリスマスツリーの下で恋人と落ち合った彼は、
綺麗に包装されたプレゼントを受け取っていた。

こんな立場じゃなきゃ、微笑ましい場面だったんだど、
僕はそれを見て思わず頭を抱えたね。

85 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:56:15.57 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

なんでかな。その時ふいに、僕は幸せな気持ちになったんだ。
代役の二人は今後も僕らの席に座り続けるだろうし、
後期の単位は既に取り返しがつかないし、友達はいないし、
おまけに今すぐ凍えて死にそうで――けれども、幸せだったんだ。

これからは、何があっても、大抵のことは平気な気がしたんだ。
僕たちなら、それなりに上手くやっていけそうな気がした。
それはいかにも根拠のない自信だったけど、
根拠がない自信ほど、強力なものもないんだよ。

混乱してたのかもしれないけど、ひょっとすると、そのときの僕は、
一周目の二十歳のクリスマスより、幸せだったかもしれない。
だとしたら、それって、本当に本当にすごいことだよ。

十年ぶりの、ハッピークリスマスってやつだったんだ。

27 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:47:05.19 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

その頃になると、殺害方法は既に決まっていて、
ドッペルゲンガーの行動様式も大体把握して、
実を言うと、とっくに行動に移っても良い頃合だったんだ。

それでも僕がだらだらと尾行を続けていたのは、
多分、踏ん切りがつかなかったからと思う。

つまり僕は、彼が欠点を晒してくれるのを待っていたんだな。
僕は、彼が死ぬべき人間だって思い込みたかったんだ。
殺すに値する理由が、ほんの少しでも欲しかったんだよ。

困ったことに、数か月に渡ってあら探しを続けても、
彼は短所らしい短所をまったく見せないでいた。

どっちかと言うと、僕の方が死ぬべき人間なんだろうな。

68 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:53:33.76 ID:WQQ53zw9pXMAS.net

うわなつかし、最後交通整理するやつやん

61 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:52:48.92 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

そういうわけで、僕はドッペルゲンガーの
殺害計画を諦めたわけなんだけどさ、
願いってのは、腹立たしいことに、
願うのをやめた頃に叶うものなんだ。

86 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:56:25.93 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

朝方に帰宅した僕は、眠気もまったくなくて、
なんだか生まれ変わったような気分だった。

僕が恋人から貰ったプレゼントをごそごそやっていたせいで、
僕のベッドで寝ていた妹が、目を覚ました。
眠たげな目で、枕元にある僕からのプレゼントを眺めて、
少し遅れて、「おおー」と満更でもなさそうに言った。
寝起きの妹って、ちょっとだけ一周目の面影があるんだよ。

僕はベッドに腰掛け、「なあ」と話しかけた。

「兄ちゃんは、十年後から戻ってきたんだよ」

妹は寝ぼけた顔で、やっぱり、「おかえりー」と笑った。
僕はそれが大のお気に入りだったから、
「ただいま」と言って妹の頭を撫でた。
妹は不服そうに僕の顔を見つめたけど、
内心、そんなに悪い気はしていないみたいだった。

89 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:57:59.01 ID:CkrvMv6C0XMAS.net

途中まで読んだ

91 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:58:24.05 ID:1GfOjVR2dXMAS.net

こんだけ書けるなら今頃作者は短編集作家とかやれてそう

96 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 02:00:52.74 ID:GwNb7mO0aXMAS.net

10年戻っても30代やぞ

78 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:55:02.68 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

「ニュースの映像では、数台の車がぐちゃぐちゃになってて、
――その中に、青い軽自動車があったことを覚えてるんだ。
実を言うとそれは、二周目の僕にとっては、馴染み深い物でね。
何せ、自分の役割を奪った男が乗っていた車だったから」
そこまで言って、僕は一度、横目に時計を見る。

「このまま放っておけば、同じ事故が起きて、彼らは命を落とす。
それは本当なら、僕にとっては望ましい展開のはずなんだ」

彼女は何も言わず、黙って話を聞いていた。
視界の端で頷く彼女に、僕はまた懐かしい感じを覚えたな。

「でもさ」と僕は言う。
「そういう悲劇を見逃すには、今日はあまりにもめでたい日だ。
それに僕は、一周目の人生を愛しているのと同じように、
それを再現してる彼らのことも、どっか愛してるところがあるんだよ。
僕も、たまには、二周目らしいところを見せてやろうと思う。
一周目の反省や教訓を活かして、もっと優れた二周目を目指すんだ」

37 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:48:41 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

僕と妹は、40cmくらい距離をとって椅子に座り、
カップ式自販機のココアを飲みながらバスを待った。

ひどい場所だったね。ここからバスに乗ったら、
昭和や大正に連れてかれるんじゃないかと思った。
まあ、本当にそうだとしたら、僕は進んで乗っただろうけどね。

僕がココアを飲み終えると、妹は「ん」と手を差出し、
僕のカップを自分のカップに重ね、捨てに行った。
すたすた歩く妹の背中を、僕は後ろから眺めていた。

一周目の妹と比べると、ずいぶん頼りない感じがしたな。

60 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:52:38.95 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

僕は街を当てもなく歩いた。そうしたい気分だったんだ。
どこもかしこもクリスマスムードでむなしくなったけど、
とことんそういう気分に浸りたい気分でもあったな。

考えてみると、色んなことが馬鹿馬鹿しかったね。
そもそも僕は、あの代役を殺す気でいたわけだけど、
本当にそんなことができる気でいたんだろうか?

そして奇跡的にそれに成功したところで、
その相手の子は、今の僕を好きになると、
本気で考えていたんだろうか?
だとしたら、頭がおかしかったんだろうな。

10 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:44:07.81 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

でも、ひとつだけ、悪くない思い出がある。

高校二年生の冬、ひどい吹雪の日だったな、
僕はがたがた震えながらバスを待ってたんだ。

その時、僕はふと、少し離れた場所で
僕と同じようにバスを待っている女の子が、
見たことのある顔だってことに気付いた。

いや、忘れるはずもないんだ。
それは一周目では僕の恋人だった女の子だ。
十五歳で付き合い始めてからは、ずっと傍にいたんだ。

それが、二周目では、あっさり告白を断られてさ。
思えば、悪循環の始まりはそこだった気もする。

35 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:48:17.70 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

バスターミナルまでは見送ることにした。
雪が結構ひどくて、あまり街灯もない道で、
妹一人で行かせるには心配だったからね。

隣と呼んでいいのかどうか分からないくらいの
絶妙な距離を保ちながら歩く僕たちは、
あいかわらず、終始口をつぐんでいた。
一周目だったら、手を繋いで歩いてたとこだよ。

妹は、僕のことを恨んでるんじゃないかと思ったな。
まあ、とっくに嫌われてるからいいけどさ。
それに、これから人一人殺そうって人間が、
誰にどう思われるか一々気にしてたら、きりがないよ。

64 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:53:22.02 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

休憩時間になると、僕は元恋人を放って、
一人で外に煙草を吸いに行ったんだ。
彼女といると、過ぎたことばかり考えてしまうからね。

何気なく駐車場の様子を眺めていると、
見覚えのある青い軽自動車が入ってくるのが見えた。

それは僕がストーカー時代によく目にした車なんだ。
つまり、代役二人が乗っている車というわけさ。
結構めずらしい車種だったから、すぐに分かった。

そういえば、二十歳のクリスマスの夜、
僕たちはにここを訪れたんだっけ。

53 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:51:26.99 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

彼女が顔を上げたとき、僕らの目が合った。
その一瞬で、どうしてか、僕は彼女に関して、
色んなことが分かっちゃったんだ。

その一。彼女は僕の代役に恋している。
限りなく似たような感情を抱いていると、
目を見ただけで、分かるものなんだよ。

その二。彼女は僕の元恋人に嫉妬している。
たしかに、思いを寄せている人間と
あれだけ親密にされたら、そうもなるよね。

その三。彼女には”一周目”の記憶がある。

7 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:43:36.52 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

一周目の再現に関して、僕は妥協しなかった。

周りの連中をコケにしたくなるのを我慢して我慢して、
わざわざ一周目と同じ事故に遭いさえしたんだ。
何をするにも、手を抜くことに真剣だったね。

我ながら、僕はよくがんばった方だと思うよ。
それでも、蝶の羽ばたきひとつ程度の違いで、
人生ってやつは、かなり変わってしまうものらしい。

二周目に入って五年も経つ頃には、僕の人生は、
一周目のそれとは、大きく様変わりしていたんだ。

55 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:51:46 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

それは、「思い出し方に制限がかかっている」ってこと。
自分はこういう特徴の人間とこういう関係がある、
みたいなことはしっかり覚えてたんだけど、
実際の名前、顔、声みたいな具体的情報は、
いくら思い出そうとしてもはっきりしなかったんだ。

「表情が豊か」とか「日焼けしている」とか、
「大人しそうな名前」とか「目つきが悪い」とか、
そういう風には思い出せるのに、だよ。

でも、二周目の僕は、そのことを軽視していたんだ。
一周目の再現をするだけの二周目においては、
記憶に制限があっても、さほど支障はないように見えたからね。
それに、記憶ってのは、多かれ少なかれ、
はじめからそういう不確かな性質があるものだから。

76 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:54:48.39 ID:f8NLiin/0XMAS.net

長い

26 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:46:54.48 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

妹は、僕の部屋で一日中本を読んで過ごすらしい。
僕が家を出て行こうとすると、妹は顔を上げて、
「おにいちゃん、大学行くの?」と聞いてきた。

「殺害したい相手の生活パターンを知りたいから、
ストーカーしに行くんだ」と言うわけにもいかないから、
僕は「そう、大学だよ。七時には帰る」と答えておいた。

今年中には、この問題に決着をつけたかったんだ。
ドッペルゲンガーと元恋人が共にクリスマスを過ごしたり
新年を迎えたりすることなんて、考えたくもなかったからね。

32 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:47:53.36 ID:cPN1GIDp0XMAS.net

スターティング・オーヴァー

65 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:53:23.20 ID:chGtnJNNaXMAS.net

このスレあぼーんしかなくて草

92 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:58:57.93 ID:VJmLpwlr0XMAS.net

何でなんJなんかでこんなん張ってるの?

51 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:51:04.06 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

それでね、ふと横に目をやると、おかしいんだよ、
僕とまったく同じように頭を抱えている人がいたんだ。

そいつをよく見ると、知らない顔じゃなかった。
というのも、その子は小中高と同じ学校に通っていて、
さらには大学の学部まで一緒の子だったから、
人の顔を覚えられない僕でも、さすがに覚えてたんだ。

でも、あんまり口をきいたことはなかったな。
だって、向こうも僕には言われたくないだろうけど、
ひどく話しかけづらい子だったんだよ。

彼女の視線は、僕と同じで、駅の広場に向いていた。
そりゃあ、ここにいたら、他に見るものはないんだけどさ、
彼女を見ているうちに、僕の中で何かが引っかかったんだ。

87 :おしまい:2019/12/25(水) 01:56:39.58 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

「兄ちゃんは、十年後から戻ってきてたんだ。
僕は十歳から二十歳の人生を、もう一度やり直したのさ。

そのときの僕には、これから自分が犯す過ちだとか、
本当にやるべきことというのが、分かったんだ。
なろうと思えば、神童にだって、予言者にだってなれた。

でも、僕はなにひとつ変える気がなかったんだ。
前と同じ人生を送られれば、それだけで十分だったからね。

しかし僕は、一周目の再現に失敗してしまったんだ。
周りの幸せだったはずの人たちにも、悪い影響を与えてしまった。
――ただ、だからこそ、僕は知ってるんだよ。
僕たちは、もっとまともになれるはずだったってことを。
微妙な違いで人は変わるし、変われるんだってことを。

ちょっと歯車がずれて、こんな風にはなってしまったけれど、
それは些細な違いであって、僕らがまともになれない理由はないはずなんだ。
だからさ、もう一度、あの日々を取り戻そう。そろそろ、反撃開始と行こうじゃないか」

プレゼントを抱えた妹は、やっぱり、「よくわかんない」と答えた。
いずれわかるさ、と僕は言った。

6 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:43:22.81 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

僕は自分の最高の思い付きを誰かに披露したくて、
目の前にいる七歳の妹に、こう言った。

「今の僕には、これから自分が犯す過ちだとか、
本当にやるべきことというのが、分かるんだ。
今からなら、神童にだって、予言者にだってなれる。

でも、僕はなにひとつ変える気がないんだ。
前と同じ人生を送られれば、それだけで十分だからね」

テディベアを抱えた妹は、僕の顔をぼうっと見つめて、
「よくわかんない」と正直なところを答えた。

90 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:57:59.77 ID:WSdPKDwN0XMAS.net

これでおわりなんけ

57 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:52:07 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

かつての恋人が自分と同じような状況にあって、
同じ苦悩を抱えていると知ったとき、
けれどもね、僕は喜びはしなかったんだ。
いや、むしろ絶望を深めたと言ってもいい。

どうしてかと言うとね、たとえ隣にいるその子が、
僕の本当の恋人だったとしてもね、今僕が好きなのは、
より一周目の彼女に近い、”偽物”の方なんだよ。

僕が気にするのは「オリジナルかどうか」じゃなくて、
「一周目と同じ気持ちにさせてくれるかどうか」だったんだ。
変わっちまった本物には、もはや興味がないんだな。

11 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:44:17.87 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

向こうは、僕に気付いてないみたいに見えた。
そうでなくても、僕の存在なんて、
とうの昔に忘れちゃってたかもしれない。

それでも僕の目には、寒さに震える彼女が、
なんだか寂しそうに見えて――隣に誰か、
温かい存在を必要としているように見えたんだ。

いやあ、実に自分に都合のいい想像だよ。
それでも僕は幸せだった。だってさ、
自分が必要とされている気がしたんだ。

あの子にはやっぱり僕が必要なんだって、
幸せな勘違いをすることができたんだ

29 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:47:24.93 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

友人がいないと言えばさ、一周目の僕は、
仲良く談笑できるくらいの相手は、大学中に、
控え目に見積もっても二百人はいたんだよ。

当時の僕は、そいつらが皆、癖こそあれ、
それぞれにいい所を持った奴に見えたんだけど、
今になって少し離れた場所から見ていると、
どいつもこいつも、ろくでなしのように見えたね。

自分と関係のある人間が良いやつに見えて、
関係のない人間が嫌な奴に見えるのは当前だけどさ、
変な話、そういうことに僕は慰められたんだよ。

ああ、少なくとも、一周目の僕は、全てにおいて
恵まれていたわけじゃなかったんだ、って思うとね。

惨めな話だよ、そんなことに喜びを感じるなんて。

4 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:42:58.15 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

二周目の人生は、ちょうど十歳のクリスマスから始まった。

僕がそれに気付けたのは、枕元に置いてあった、
スーパーファミコンの入った紙袋のおかげだったんだ。
当時はそれが欲しくて仕方なかったんだよ。

紙袋の中には、一緒にゲームソフトも入っていた。
そのゲームの言い方を借りれば、僕の人生は、
『つよくてニューゲーム』にあたるわけだな。

結露した窓をパジャマの袖でこすって外を見ると、
まだうす暗く、雪に覆われた街が一望できた。
かなり寒いはずなんだけど、子供の体は温かかったな。

79 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:55:14.08 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

事故現場に到着した僕らは、停電に備えて待機した。
彼女はおそるおそる僕の肩を叩いて、聞く。
「これまでにも、こうやって、人を助けたりしてきたの?」
相変わらず、いいところに目をつけるんだよな。

「いや。これが初めてだね」と僕は答える。
「だから、今やってるのは、あんまり良くないことだと思うよ。
本来、数えきれないくらいの命を救えたはずの人間が、
いまさら自分の助けたい相手だけ助けるなんてさ」

「そっか……私も、これが初めて」と彼女は言う。
「私、二周目に入ってからも、一周目の記憶を使って
何かしようとしたことは、一度もなかったんだ。
今はこんな風になっちゃったけど、本当は、
私、前の人生を、そのまま繰り返そうと――」

「僕もそうさ」被せるように僕は言った。

48 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:50:42.05 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

街路樹や店先にイルミネーションが灯り、
いたるところでクリスマスソングが流れ、
駅前には巨大なモミの木が設置され、
いよいよクリスマスが近づいてきていた。

妹は四回目の家出から無念の帰宅をして、
僕は駅にあるカフェでコーヒーを飲んでいた。
そこからだと、広場の様子がよく分かるんだ。

そして駅前の広場は、僕の元恋人が、
待ち合わせによく使っていた場所なんだよ。
僕はそこで、彼らが落ち合うのを見張っていた。

この日は、ちょっと特別な日なんだ。

28 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:47:15.63 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

妹と図書館に行ってきた時に借りた本によると、
ドッペルゲンガーには、以下のような特徴があるらしい。

・周囲の人間と会話をしない。
・本人に関係のある場所に出現する。
・ドッペルゲンガーに出会った本人は死んでしまい、
 ドッペルゲンガーがオリジナルになってしまう。

ちょっと考えればわかることだけど、これらの特徴、
どちらかというと全て、僕の方に当てはまるんだよな。

友人のいない僕はめったに人と会話しないし、
同じ大学に通う僕らは出現場所が似ているし、
死ぬとしたら彼の方だし(僕が殺すからね)、
向こうの方が見た目も中身も一周目の僕に近い。

これじゃあまるで、僕が偽物みたいじゃないか。

71 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:53:54.21 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

人間の運ってものは、長い目で見れば、
釣り合いの取れてるものなのかもしれないな。

その考え方は、大抵は運のない人間が
自分を慰めるために使う言葉なんだけど、
この時ばかりは、そう思わずにはいられなかったよ。

不思議と、どんな感情も湧いてこなかったね。
そうか、あの二人は死んでしまうのか。それだけ。

どちらかと言えば、喜ぶべきことだったと思うよ。
あの男のことが憎いことには変わりがないし、
あの女の子はどうせ僕のものにはならないんだし。

そう、手に入らないものなら、最初っからない方が幸せなんだ。

69 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:53:42.71 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

代役の二人たちが行ってしまってから、僕はしばらく、
彼らがこれからどう過ごすのかを思い出していた。
隣にいる元恋人も、同じことを思い出していたんじゃないかな。
こんなに気分の悪いことって、そうそうないよ。

抽選会場の傍には家電コーナーがあって、
僕は気を逸らすために、そこに置いてある
大型テレビの映像を眺めることにした。

なんてことはないニュース映像が流れていて、
たまに駅前のイルミネーションが映されたりして、
――そして僕は突然、さっきの二人が、
これから死ぬ運命にあるってことに気付いたんだ。

69 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:53:42.71 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

代役の二人たちが行ってしまってから、僕はしばらく、
彼らがこれからどう過ごすのかを思い出していた。
隣にいる元恋人も、同じことを思い出していたんじゃないかな。
こんなに気分の悪いことって、そうそうないよ。

抽選会場の傍には家電コーナーがあって、
僕は気を逸らすために、そこに置いてある
大型テレビの映像を眺めることにした。

なんてことはないニュース映像が流れていて、
たまに駅前のイルミネーションが映されたりして、
――そして僕は突然、さっきの二人が、
これから死ぬ運命にあるってことに気付いたんだ。

16 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:45:08.96 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

秋頃になって、僕の頭の中で何かが切れた。

その頃になると、僕はほぼ引きこもりになっていて、
ほとんど大学には行かず、一日中安酒を飲んで、
ろくに食事もとらず、寝てばかりいたんだ。

このままじゃ発狂すると思ったね。
何をしていても、例のドッペルゲンガーと、
今の自分とを比較してしまうんだ。

そうすると、それまで当たり前だったことさえ、
急に耐えられなくなっちゃうんだよ。

94 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:59:45.90 ID:wa0wyms/0XMAS.net

時を戻そう

98 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 02:01:20.87 ID:4CnK5NEo0XMAS.net

こいつアホかよ
競馬やってりゃ大金持ちやぞ

21 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:46:02.91 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

ところが、僕がドッペルゲンガー殺害計画を立て、
嬉々として殺害方法を考えていた夜、その妹が、
一人で僕のアパートにやってきたんだ。

僕のことが大嫌いなはずの妹がだよ。

ちょうど、初雪が観測された日のことだったな。
あまりに寒いから、やむなくヒーターを点けて、
懐かしい感じのする灯油の匂いが部屋に満ちて、
そのとき、部屋の呼び鈴が鳴ったんだ。

制服にカーディガンを重ねただけの格好の妹は、
白い息を吐きながら、僕の目を見ずに言った。
「しばらく、ここに泊めてちょうだい」

46 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:50:21.29 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

「煙草、吸うんだね。意外だな」と僕が言うと、
僕のかつての恋人は、困ったような顔で笑った。
「彼にも秘密にしてるんだ。今の所、君しか知らない」

僕はその言葉を脳に刻みつけたね。
”君しか知らない”。実に心地よい響きだよ。

辺りが真っ暗になって、彼女は帰って行った。
僕はしばらく、彼女との会話の余韻に浸っていたな。
止まらない体の震えは寒さによるものなのか、
興奮によるものなのかは、分かんなかった。
こんなんで喜べるなんて、エコの極みだよね。

それに、このとき僕はまだ、自分のしている
致命的な勘違いには気づいていないんだ。

81 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:55:38.42 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

それは実に馬鹿げた光景だったと思うよ。
サンタクロース二人が袋から色んな灯りを出してさ、
誘導棒を持って交通整理をし始めたんだから。

用意した色とりどりの回転灯なんかは、見方によっては、
クリスマスのイルミネーションに見えなくもなかったな。
馬鹿みたいに沢山並べたんだよ、僕たち。

しかも僕はその馬鹿らしさに当てられちゃって、
窓を開けてねぎらいの言葉をくれたカップルとかに、
何回か「メリークリスマス!」を言っちまったんだ。

一番言いたくなかったはずの言葉なのにな。
格好と寒さで頭がどうかしてたんだと思うよ。

本当に酷い吹雪でさ、目を開けているのも辛かったし、
無意識に奥歯を噛みしめちゃって、顎が痛くて、
自分がどこまで服を着てるのかも分かんないくらい、
体のあらゆるところが冷え切ってたね。

19 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 01:45:38.00 ID:CeSFsvbi0XMAS.net

本来、僕の妹は、運動と太陽をこよなく愛していて、
年中健康的に日焼けしている、活発な女の子だった。

ところが二周目においては、僕の影響を受けたのか、
読書と日陰を好む、色白の眼鏡の子になったんだ。

一周目を知る人から見たら、何かの冗談みたいだよ。

兄妹揃って暗い人間になって、家は毎晩お通夜みたいだったな。
両親も自分に自信がなくなったのか、嫌な人間になっていった。
いやあ、人一人の持つ影響力ってのは、馬鹿にならないね。

97 :風吹けば名無し:2019/12/25(水) 02:01:12.09 ID:HADdoz8q0XMAS.net

とりあえず元ネタがあるなら元ネタとどこからコピペしたかと読む価値があるかどうか教えて